3月4日に、ウィシュマさんを診察した精神科医との面談について


 7月2日、ウィシュマさんのご遺族と代理人弁護士および通訳の方が、ウィシュマさんが死亡する2日前の3月4日、外部病院での診察を担当した医師に面会し、その医師の話から以下の内容が明らかになりました。
 
① この医師が、名古屋入管に提出した「診療情報提供書」に記載した、「支援者から『病気になれば、仮釈放(注:仮放免)してもらえる』と言われた頃から心身の不調を生じており、詐病の可能性もある。」という箇所については、入管職員から、口頭で、「支援者から『病気になれば仮釈放してもらえる』と言われた頃から心身の不調を生じている。」と伝えられたので、「詐病の可能性もある」と、この医師が思って、その旨を書いたことが明らかになりました。医師は、そのような職員からの説明がなければ、「詐病は疑わなかった」と話しています。
 つまり、入管からの情報提供によって、医師が「詐病」の可能性という先入観をもって診察にあたり、その結果、医療判断があいまいなものになってしまいました。
 なお、6月5日公開の「名古屋入管死亡事件・3月4日『診療情報提供書』に対するSTARTの見解」の記事にもあるように、STARTは「病気になれば仮放免してもらえる」と言ったことはありません。
 
② 「入管職員から、『A病院でいろいろ検査したが、内科的には問題が無い』と報告があったので、それで精神科を受診したと思った。」「『体は大丈夫』という説明があった。」しかし、「体は大丈夫と言われたわりにはぐったりしているように見えた」が、「入管職員から『内科的には問題が無い』と言われたので、精神的な面での診察しか考えなかった」と言っています。
 入管職員は「A病院でいろいろ検査し、内科的には問題が無かった」と報告していますが、A病院では内視鏡(胃カメラ)による検査しか行われていません。「内科的には問題ない」という判断は、入管が勝手に下した判断です。その結果、精神科医は、誤った認識の下で診察を行い、明確な判断を示すことができませんでした。

 

③ この精神科医は、入管職員に対して、「(入管の)収容施設から出してあげた方が良い」と伝えたと言いました。それに対して、入管職員は、「『持ち帰らせてもらいます』と答えた」と言いました。

 医者が仮放免を勧めたにも関わらず、入管はその判断に従いませんでした。その結果、ウィシュマさんは、この2日後に亡くなってしまいました。


  このやり取りは、中間報告をはじめとして、入管側からは一切明らかにされていません。

 上記のように、名古屋入管とこの精神科医が勤務する病院との間では、極めていい加減な医療行為が、当たり前のごとく行われていたことが明らかになりました。医師は、初診の患者に対して、入管職員からの口頭報告のみで、診察したり、内服薬の処方箋を書いたりしています。カルテや他の病院からの紹介状等を、入管から提出させることもせず、医師自ら詳しい検査をすることもしていません。医療資格もない入管職員の報告を、鵜吞みにして、診察や投薬をしています。このずさんな医療行為が、ウィシュマさんの死を避けることを、できなくさせたと言っても過言ではありません。入管医療のあり方や、受け入れ側の病院の対応について、患者の利益第一のもとで、抜本的な改革が必要とされているのではないでしょうか。
 3月3日、STARTが、ウィシュマさんとの最後の面会をした日、ウィシュマさんは、コロナ対策が厳しくなっていたにもかかわらず、マスク無しで、車椅子に乗って面会室に現われました。マスクをしていると、呼吸が苦しいので、外したままで面会させたと思われます。とてもやせ細り、目はくぼみ、目の周りは黒ずみ、皮膚はガサガサで、唇も黒く、口から泡を吹いている状態で、指は骨しかないほどにやせ細り、まともに動かすことができませんでした。とても問題ないと言えるような状態ではありません。収容を続けられる状態ではないし、このままでは死んでしまうと思われました。
 その翌日の3月4日、外部病院に行った時も、ウィシュマさんは「ぐったりしていた」のです。そのようにぐったりしたウィシュマさんの状態を見て、医師が、精密検査もせず、入院、点滴、あるいは仮放免の明確な判断を出さず、様子見とすることは、患者に対してあまりにもそっけない対応のように思えてなりません。医師もまた「詐病」のトリコになっていたのでしょうか。いずれにしても、医療資格もない入管の誤った情報が、医師の判断を鈍らせ、医療を歪め、結果、ウィシュマさんを死に至らしめました。
 今もなお、入管は証拠を隠し、真相を隠蔽しようとしています。これは犯罪的な行為であり、決して許されることではありません。
STARTは、引き続き、ウィシュマさん死亡事件の真相解明を徹底して追求していきます。