「被告(国)の書面は、論理的な主張を述べることを放棄しているのでしょうか?」第13回ウィシュマさん裁判

 7月10日、名古屋地裁にて名古屋入管ウィシュマさん死亡事件国家賠償請求訴訟第13回口頭弁論が行われました。80名以上の市民、学生が駆けつけ、傍聴席はほぼ満席になりました。今回の弁論では、国側から、第11準備書面と、前回記述で原告側が提出した求釈明申立書が提出されました。その後、原告であるウィシュマさんの妹のワヨミさん、ポールニマさんが意見陳述を行いました。

 裁判が始まってから約2年半が経ち、原告(ご遺族)と被告(国側)の双方の主張がようやく出揃いつつあります。

国側の主張(要約)

ウィシュマさんの死因または機序(ものごとが起こるメカニズム。今回の場合は、直接的に真の原因となった症状ないし事象、つまり名古屋入管の職員のどのような行動もしくは行動しなかったことが、死亡の決定的な原因になったのか)を争点とするべきである。死因は不明であり、また原告は機序についてきちんと説明をしていない。機序が分からなければ、入管の職員がどのような対応をすべきだったのか特定できず、入管に責任があったとは考えられない。

原告の主張(要約)

ウィシュマさんの死因は、低栄養・脱水であり、死亡に至るまでは複数の機序があり得る。ウィシュマさんは名古屋入管の収容施設内で身柄を拘束され、自分の意志で医療にたどり着けない状態で亡くなってしまった。たとえ機序が明確に説明できなかったとしても、自由に動くことのできなかったウィシュマさんが死亡してしまったことについて、入管に責任があることは明らかである(医療の判例にルンバール事件最高裁判決がある)。

今回提出された二文書でも、国側は、死亡に至るどの時点でも、ウィシュマさんが生命に危機を伴うほどの低栄養・脱水の状態にあったとは認められないので死因は不明であり、死因や機序が分からなければ入管に責任があったと特定できないという主張を繰り返していました。

 この国の主張に対して、ご遺族が語った意見陳述の内容の一部を紹介します。

ワヨミさん

2021年2月15日に、姉の身体が飢餓状態にあったことを示す尿検査の結果が出ています。被告によれば、この尿検査をオーダーした医者は、この尿検査の結果を把握したかどうかの記憶がはっきりしないと言っているそうです。…日本の医療のレベルはそこまで低いのでしょうか。それとも、日本では、姉のような外国人に対して、最も初歩的なレベルの医療さえ与えないことにしているのでしょうか

被告の書面は、論理的な主張を述べることを放棄しているのでしょうか?それとも、被告は、私たちが非論理性に疑問を感じないほど、私たちに論理的な思考をできないと考えているのでしょうか

私たちは、決して諦めません。姉の死の真相究明も、裁判所に正義を求めることも、諦めません。

ポールニマさん

国は、『死の原因ないし機序』は『低栄養・脱水』ではなく、『より直接的な死亡の原因となった症状ないし事象』であると主張しています。姉は、死の直前まで入管にいました。入院させてもらえませんでした。入管では、姉が死に至る経緯について、詳しい医療記録をつけていませんから、『低栄養・脱水』から死亡に至る詳しい経緯が分からないところがあります。これが理由となって、『死の原因ないし機序』が不明となるなら、入管は、収容している人を入院させなければ、その人が死んでも、入管は責任を取らなくていいことになります。

私たちは、日本の裁判所が、正義に基づき、正しい判断をしてくれると信じています。国がどんなに非常識でおかしな主張をしても、気にすることはないのかもしれません。でも、私たちは、国がこのような非常識でおかしな主張をすることについて、怒りを覚えます。国は、もっと、この事件に真摯に向き合ってください。

 ご遺族の陳述にある通り、国側の論理は破綻しています。入管には責任がなかったと繰り返し、入管が適切な検査や治療をしていなかったからこそ説明が難しくなっている機序について、ご遺族の側に説明を求めるなど、責任転嫁も甚だしいです。法的な観点で見れば、入管に責任があることは明らかです。

 次回の期日は9月25日(水)です。傍聴し、ご遺族と共に真相究明・再発防止を実現させましょう!

【今後の裁判のスケジュール】

 第14回 9月25日(水) 14:30~

 第15回 11月27日(水)14:30~

 第16回 2月5日(水)  14:30~


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