7・25 「真相究明を求める会」東海集会 死亡事件の近況報告
「ウィシュマさん死亡事件の真相究明を求める学生・市民の会」東海集会が7月25日に行われました。以下、集会の中で扱われた、ウィシュマさん死亡事件の近況報告の内容です。
ウィシュマさん死亡事件近況報告
3月6日にウィシュマさんが亡くなられてから、間もなく5か月が経とうとしています。しかし、いまだ死因さえ明らかになっていません。しかも、入管は、ウィシュマさんが亡くなる何週間か前までのビデオや様々な検査結果のデータや関係書類、等々、死因を特定し、その責任の所在を明らかにすることができる、いわば証拠となるものを持っているにもかかわらず、死因さえ公表せず、死因究明の証拠となるビデオ等を、ご遺族に対しても見せようとしていません。「保安上の理由」を口実にして、ひた隠しにしているその態度からは、人権を尊び、人道を重んじる民主的な姿勢を感じさせません。法務省、入管庁に対して、日本国民の不信感、不快感を増長させるだけでなく、日本の国家、社会、民族の国際的信用を失わせるような重大な過ちをしていることについて認めさせ、真相究明の立場に立たせるために、みなさんのご理解とご協力を訴え、ウィシュマさん死亡事件についての近況を報告させていただきます。
今年4月に、入管庁からウィシュマさん死亡事件に関する「中間報告」が出されました。ところが、私たちSTARTが面会して、直接、ウィシュマさんから聴き取ったことや、入管の収容場を管理する処遇部門や、仮放免許可を審査する審判部門とやり取りをして、STARTが掴んでいたことから見ると、「中間報告」の内容は、真相を解明するためではなく、入管が責任逃れをするために作成されたものとしか言いようがないものでした。
「中間報告」に対しては、私たちSTARTのみならず多くの方々、多様な方面から批判が相次ぎ、法務大臣も「皆様のご意見も踏まえ、しっかり調査をして、7月に『最終報告』を出します」と約束せざるを得ませんでした。しかし、その内容が、ご遺族をはじめ全国の支援者が納得できるものでない限り、真相究明・再発防止にはつながりません。STARTは死亡事件以降も継続して、「現場」での面会活動をはじめとする支援活動を続けていますが、名古屋入管の被収容者に対する処遇について、とりわけ医療対応を見ても、再発防止に逆行するような問題が起きています。
2月5日の外部病院での診察について
先日、ウィシュマさんを、2月5日に診療した中京病院の消化器内科の医師と、ご遺族と弁護士が面談をし、ウィシュマさんが内視鏡(いわゆる胃カメラ)の検査を受けた時の状況、とりわけ点滴、入院の話について聴き取りを行いました。この医師は、入管に収容されている人を診療するのは、ウィシュマさんが初めての事だと言っていました。診察の際は、男性職員がたくさんいて驚いたと言っていました。医師は、患者であるウィシュマさんの状態も明確に覚えておらず、ウィシュマさんと「話をした記憶がない」、通訳がいたかどうかも「覚えてない」と言っていました。これらの発言から、中京病院の担当医師は、2月5日の内視鏡検査の日には、患者さんのウィシュマさんとは会っていない、すなわち入管職員と会話しただけではなかったのか、という推測ができます。初めて入管の患者さんを診察する医師が、患者さんがいたかどうかも「記憶がない」とは異常なことです。患者さんとは対面していなかった、というのが正しい状況ではないでしょうか。
この医師は、入管側から、消化管の検査をしてほしいと、限定して頼まれたので胃カメラの検査を行い、その検査の結果については「異常なし」と言い、点滴は「必須ではない」と判断したと言いました。ところが、その後の入管への報告では「逆流性食道炎」という報告がされていました。この医師は、自分が入管に報告したことを忘れてしまったのでしょうか。また、STARTが、2月8日、ウィシュマさんと面会した後に、処遇部門に行って「なぜ点滴を打たなかったのか」と抗議した際に、入管職員から、「(胃の中にいくつかただれがあるが)重篤(じゅうとく)な状態ではない」、「点滴を打つ話はあったが」、「長い時間がかかる」ので「入院と同じ状態になるので」(職員が)「連れて帰った」という説明を受けていました。このことについて、中京病院の医師に、入管とそのようなやりとりがあったのか確認したところ、医師は、そのやりとりがあったことを認めました。そして、点滴などの処置は、「入管(の医師)に委(ゆだ)ねた」と言いました。
このときすでにウィシュマさんは、薬を飲んでも嘔吐を繰り返す状態で、飲み薬では効果が期待できないことについて、医師は入管から報告を受けて「知っていた」と言いました。この医師が診療結果を入管に報告するために作成した「診療情報提供書」にも、「薬を内服できないのであれば点滴、入院」と書かれていることから、医師は「必須ではないが」点滴を打った方がいいという判断を持っていたと思われます。しかし、入管職員がウィシュマさんを連れ帰ってしまったため、ウィシュマさんは点滴治療を受けることができなかったのです。その後、入管内でも点滴治療は行われませんでした。
医師が、初めて診察する患者であったウィシュマさんと、一言も会話をせず、入管からの報告のみで診断し、薬も出しているのです。検査結果についても、患者であるウィシュマさんには全く説明されていません。これが入管の医療の実態であり、私たちの常識とはかけ離れた状況の中に、入管の患者さんたち、すなわち被収容者は置かれているのです。
3月4日の外部病院での診察について
さらに、ウィシュマさんが亡くなる2日前の3月4日、ウィシュマさんを診察したエキサイカイ病院の精神科の医師とも、ご遺族と弁護士が面談しました。この時、医師が入管に対して診察結果を報告した「診療情報提供書」に、診察前に「詐病の疑いがある」と、入管から報告を受けていたこと等についても、聴き取りをしました。この医師も、ウィシュマさんを診察するのは、この時が初めてでした。この医師が「診療情報提供書」に記載した、「支援者から、病気になれば仮釈放してもらえると、言われた頃から心身の不調を生じており、詐病の可能性もある。」という記述については、入管職員から、口頭で、伝えられたため、この医師が詐病の可能性もあると判断し、その旨を書いたと証言しました。「詐病の可能性」は入管側が言ったのではなく、この医師が考えたことだというのです。ただし、医師は、職員から「支援者から病気になれば仮釈放してもらえると言われた頃から心身の不調を生じている。」という報告がなければ、「詐病は疑わなかった」と話しています。つまり、入管からの事前の情報提供によって、医師が「詐病の可能性」という先入観をもって診察したために、医師の判断が「様子見」というあいまいなものになってしまいました。この医師は、入管職員に対して、「収容施設から出してあげた方が良い」と、直接話をしたと言いました。しかし、明確な診断として指示しなかったために、入管職員は「持ち帰らせてもらいます」と、答えただけで終わってしまいました。医師は、確かに仮放免を勧めましたが、明確に判断できず、入管は医師の意見を「参考意見」程度にしか受け取らず、その結果、ウィシュマさんはこの2日後に亡くなってしまったのです。
この時も、精神科の医師は、初診のウィシュマさんに対して、「ぐったりしていた」と患者さんに対する印象を述べていましたが、その患者さんを前にして、問診もせず、すべて入管からの、その場の「口頭報告」だけで、「内科の病気はないと聞いたので、あとは精神科で診療するしかない」と判断したと言っています。入管内の医師のカルテ、中京病院での内視鏡検査結果のカルテ等、何も見ていないし、自分で検査をしようともせず、入管職員からの報告だけで診察、投薬をしています。
中京病院も、エキサイカイ病院も、医師は、入管の言いなりで診察しているとしか思えません。先入観、決めつけのもとで、診察が行われていたのではないか、と疑わざるを得ません。こんなずさんな医療が許されていいのでしょうか。少なくとも、今後、入管の医療への介入は、絶対に排除しなければならないと思います。
ウィシュマさんは何度も点滴を打ってほしいと訴えていましたが、詐病扱いされ、適切な治療を受けることができず、そのまま収容施設の中で亡くなるという最悪の結果になってしまいました。収容主体であり、かつ被収容者の命と健康を守る義務がある入管の責任は重大です。
死亡事件後の名古屋入管について
医療の支配だけでなく、患者本人を支配する入管の体質は収容場でも実際に起きていました。ウィシュマさんが亡くなるまで収容されていた単独室には監視カメラが設置されており、入管は24時間体制で「保護」するために、現在も体調不良者を単独室に移そうとしていますが、その実態は体調不良者を詐病扱いし、「管理」「支配」しているだけです。入管は、その監視カメラのビデオ映像を開示することを頑なに拒否しています。ご遺族にさえ、その映像を見せようとせず、証拠隠しをしている状態です。被収容者は、単独室に行ったら死んでしまうのではないか、もし死んだときに証拠が隠されてしまうのではないか、という不安と恐怖から、単独室への移動を拒んでいます。
ですが、そのような被収容者の不安が高まる中、最近STARTが面会を重ねていた体調不良者が、収容されていた共同室の部屋から、無理やり単独室に移されるという事件がありました。ご飯も水も摂取できない男性は、意識を失い救急搬送され、外部病院で点滴を打ってもらいました。2日間、治療を受けたこの男性は、自力で歩けないために車いすを使っていました。まさに亡くなる前のウィシュマさんと同じような状態でした。入管は、この男性を、食事が摂れないことを理由にして、単独室に移すと通告しましたが、本人は、「死にたくない」と、拒否したのです。そうしたら、その後まもなく、20人くらいの男性職員が、部屋に入ってきて、手足の至る所をつかんで、力いっぱい押さえつけ、胸を叩くなどして気絶させ、強制的に単独室に連れて行きました。
男性はウィシュマさんが監視カメラのある単独室で亡くなったことを知っていたので、面会中も「単独室には行きたくない、絶対に行かない」と話していました。連れ出されるときも抵抗しましたが、男性職員20人くらいによる制圧行為によって、意識を失わされ、目が覚めたときはすでに単独室にいました。その部屋はベッド無し、布団無しの4畳ほどの狭い部屋です。食事がとれず外部で点滴を打っている体調不良者を、気絶するまで押さえつけて、ムリヤリ移動させる等、常軌を逸しています。まったく病人として扱っていません。ウィシュマさんと同じく詐病扱いしています。死亡者が出た現場で、今でも、被収容者に対する人権侵害、外国人差別が行われていて、そのなかで被収容者は収容され続けているため、ストレスや不安が大きくなっています。
死亡事件以降、STARTからは支援者も含めて再発防止に向けた話し合いの場を設けるように総務課に何度も申し入れをしていますが、それに対する回答は一切なく、「申入れ内容については各部門に共有する」と答えるのみで、具体的な収容場の改善策、再発防止に向けた検討がまったく進んでいません。今までは、現場を担当する処遇部門に直接申し入れができましたが、6月以降立入禁止になり、総務課を通じてでしか処遇部門への申入れができない状態になっています。ただでさえ、収容場がどうなっているのか外からはまったくわからないのに、処遇部門が立入禁止になったことでますます入管が閉鎖的になっています。
「真相究明を求める会」の活動について
だからこそ、面会を通して、入管の収容場の実態を社会的に明らかにし、ウィシュマさんの問題が偶然起きたのではなく、これまでずっと入管は被収容者を厄介者扱いし、母国に送還するために収容を続けていることを暴露していかなければなりません。現在は監視カメラのビデオ開示の署名で世論が拡大しつつありますが、オリンピックが始まり世間の関心が分散状態になってしまっています。「真相究明を求める会」としては、今まさに真相究明・再発防止に向けた強力な世論を作っていく必要があります。事件からもうすぐ5か月が経とうとしているのに、死因も明らかにできないのは異常な状態です。ご遺族は事件の真相を知りたいということで5月に来日しましたが、入管からは証拠一つも出されていません。証拠があるのだから、とにかくその証拠を出せと追及し、入管に証拠を出させなければ、事件の真相究明からは遠ざかってしまい、入管は責任逃れ・証拠隠しを続けることになります。入管法改正案を廃案にしたときのように、今回も強力な世論の力をもって、ウィシュマさん死亡事件の真相究明・再発防止を訴えていかなければならないことを、この集会をもってしっかり確認し、署名や求める会への参加をより多くの人に呼びかけていきましょう。
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